晩年に天皇制を否定した丸山眞男。昭和天皇崩御(1989.1.7)の24日後に書かれた丸山眞男著『昭和天皇をめぐるきれぎれの回想』の抜粋。(加筆なし)

丸山眞男著

昭和天皇をめぐるきれぎれの回想

抜粋

この稿が意外にダラダラと長たらしいものになったので、いい加減でしめにしよう。敗戦の翌年2月頃に、私は創刊されたばかりの雑誌「世界」に吉野編集長の委嘱によって「超国家主義の論理と心理」を執筆し、これは五月号に掲載された。この論文は、私自身の裕仁天皇および近代天皇制への、中学生以来の「思い入れ」にピリオドを打った、という意味で ー その客観的価値にかかわりなく ー 私の「自分史」にとっても大きな画期となった。敗戦後、半年も思い悩んだ揚句、私は天皇制が日本人の自由な人格形成 ー 自らの良心に従って判断し行動し、その結果に対して自ら責任を負う人間、つまり「甘え」に依存するのと反対の行動様式をもった人間類型の形成 ー にとって致命的な障害をなしている、という帰結にようやく到達したのである。あの論文を原稿紙に書きつけながら、私は「これは学術的論文だ。したがって天皇および皇室に触れる文字にも敬語を用いる必要はないのだ」ということをいくたびも自分の心にいいきかせた。のちの人の目には私の「思想」の当然の発露と映じるかもしれない論文の一行一行が、私にとってはつい昨日までの自分にたいする必死の説得だったのである。私の近代天皇制にたいするコミットメントはそれほど深かったのであり、天皇制の「呪力からの解放」はそれほど私にとっては容易ならぬ課題であった。実はそのことをいささかでも内在的に理解していただきたい、というのが、私の少年時代からの天皇をめぐる追想をかくも冗長に綴って来た理由にほかならない。(一九八九・一・三一)

(’60、第十四号、一九八九年三月、60年の会)

岩波書店刊 丸山眞男集第十五巻 『昭和天皇をめぐるきれぎれの回想』

 

 

 

 

 

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